晩秋からイグサの一年が始まる
熊本県南部に広がる八代平野。もともと海だった場所を干拓して誕生した土地と球磨川の豊富な水源に恵まれたこの場所で、イグサは500年以上も前の江戸時代から栽培されてきた。イグサの栽培は稲作と似ているようで違う。稲よりもずっと手が掛かる作物なのだ。イグサ農家では、家族みんなで助け合いながらイグサの成長を見守っている。その様子を今回は紹介したい。
イグサ栽培は9月下旬から本格的に始まる。TATAMO! の畳表を生産している園田聖さんの場合、ポット育苗式栽培を採用しているため、この頃から家族一丸、ときには近所の方も一緒にイグサ苗の株をハサミで切り分けてポットに植えていく。この作業は約3週間、毎朝6時半から22時半まで続けられる。
園田さんがポット育苗式栽培を行っているのには理由がある。通常、成長したイグサの断面は楕円形のものが多いが、ポット栽培を行うことによって断面が丸く育つそうだ。断面の丸いイグサで織ると厚みが増し、よりクッション性に優れた畳表が完成する。そういった園田さんのこだわりが生命力の溢れる「熊本天一表」を生み出しているひとつの要因なのだろう。
11月下旬、いよいよイグサの植え付けが始まる。約30センチほどに成長したイグサ苗を植えやすいように15センチほどに切りそろえる。伸びた根も切って、植え付け用の機械(園田家では稲作絵兼用の機械を使用)にセットし、水を張ったイグサ田に植えていく。気温10℃前後の寒さのなか、家族総出で植え付け作業が行われるのだが、その昔、今より寒さが厳しかった時代には薄氷の張った水田に手でイグサ苗を植えることもあったそうだ。そのお話からもイグサ農家の苦労がうかがえる。
そして、1月に入ると今度はイグサ田の水を抜く。ここから3月まではイグサの成長を地下へうながし、太くて強い根をつくる期間になるのだ。